リノベーションにも大黒柱

リフォームで、二部屋だったところを1つの大きなリビングルームにすると、間仕切の壁がなくなって柱だけが残ることがあります。周りに壁がなくなると、配置によっては地震で傾きやすくなることもありますが、こんなときは「柱を太くする」という選択肢があります。写真は今リノベーション中の昭和49年築の家。間仕切を取り払って一本残った柱は12㎝角でした。これを24㎝角(8寸角)にして、柱の下に基礎も作りました。

私が太い柱を使うのは、強さと心地よさの2つの面でいいところがあるからです。

地震で柱が横から押されても、ある程度までは元通り真っすぐに戻る、これを「傾斜復元力」とか「転倒復元力」といいます。この復元力は柱が太いほど強くなることがわかっています。

積み木で例えると、太い積み木と鉛筆みたいに細い積み木が机の上に立ててあるとします。机を少し揺らすと、細い積み木はすぐに倒れますが、太い積み木は傾いてもなかなか倒れず、元に戻ることがあります。これが「傾斜復元力」です。

昔、家の中心にある太い柱を「大黒柱」といいましたが、太い柱は見た目だけでなく、構造的にも頼りになるのですね。

強さの面で、もう一つ良いところは「太いほど火災に強い」こと。木は燃えやすいと思われていますが、炎にさらされ表面が黒く炭化すると、燃えるスピードが遅くなることがわかっています。太くなる程ゆっくり燃え、だいたい1分間に0.6㎜のスピードだそうです。火事のニュースで、鎮火した現場に真っ黒になった柱や梁だけが残っているのを見かけますが、これが炭化した状態です。消防士さん達が平気でウロウロしているのは、崩れないことを経験的に知っているからかもしれません。

私が太い木を使うのは、構造的な理由ばかりでもありません。人がそこに住むのに、居心地のよいものにするために使うこともあります。構造上は十分だとしても、細いと頼りない感じになるし、逆にあまり太いと部屋が狭く、重々しくなるのでバランスでいつも悩みます。私はよく8寸角を使わせてもらうのですが、いくつか試してみて、普通の住宅だとこれくらいの太さが心地よいかなと思います。

居心地のよさは数字にはできないのですが、「ここは自分にとって安全な場所だ」ということを本能的に感じることができる空間が、家には必要なのではないかと思います。人は何かヨリドコロがあると心が落ち着くもので、安定感のある太い木の柱はちょうどよいヨリドコロになってくれるのではないかなと感じています。

 意外かもしれませんが、今ほど太い柱や梁を使うのに適した時代はないとも言えます。戦国時代や明治時代のように森の木が足りなくなった時代がありましたが、第二次世界大戦後に各地で植林された杉やヒノキなどが今大きく成長しています。ただし、大きくなったのはいいのですが、大きすぎるが故に使われないという悲しいことが起きています。野菜と一緒で規格外になると市場に出にくくなるのです。

そんな中、売りにくいとわかっていても、太い柱や梁材を乾かしながら倉庫の奥で大事に保管しつづける製材屋さんや工務店さん達がいます。こちらから欲しいといえば、使える状態になっていることを多くの人に知っていただけると、森づくりにつながるよい循環が生まれるのではと思います。

参考:独立行政法人森林総合研究所材料結合研究室「不思議な傾斜復元力」