農家が果樹園の中に点在する、広々とした眺めのいい土地です。
「風景に溶け込む家にしたい」という住まい手のご希望でした。
目立たず、さりげなくこの地域で暮らしていきたい、そんな思いからの言葉でしたが、
私にとっては、自分が設計する家と風景とのつながりを改めて考えるきっかけとなりました。
古い集落の美しさとはどこからくるのだろう、と考えを巡らしました。
このあたりの古い家は左官壁と瓦葺きが多いので、なじむように白壁の左官といぶし銀の瓦の家に。
そして家の高さを低く抑え、屋根の形も集落の家並みになじむように。
まるで昔からそこに存在していたかような家を作ろうと考えました。
当初、裏手の古い納屋は撤去を考えていましたが、
ひび割れた土壁の風合いは新しいものには代えがたいものでした。
解体工事が迫っていましたが、これを残し、畑仕事や趣味の場にすることになりました。
新しい家は、裏手に残すこの納屋にも行き来できるような「通り土間」のあるレイアウトを考えました。
「通り土間」は表玄関から裏手にそのまま抜けている、通路のような土間空間です。
土のついた野菜や濡れた雨具も気にせずに入っていける、外のような中。
居るところと寝るところは薪ストーブの暖かさが全体にいきわたるように大きなひとつの空間です。
空間はつながっているのですが、それぞれが好きなことをしていても気にならないように、
あえて全体が見通せないようにしてみました。
これからこの家が庭とともに風景の一部になっていく時間を楽しんでもらえたらうれしいです。