古民家と省エネ

山梨・北杜市にある旧平田家住宅です。


土間の三和土(たたき)は石灰やにがりを土に混ぜて叩いたもの。
雨が跳ねて壁を傷めないように、杉皮を貼ってありました。
屋根は茅葺きで、いわゆる「基礎」はなくて、石の上に乗っているだけ。

17世紀後半に建てられた庄屋さんの家だそうです。300年を超える寿命、すごいですね。

以前、埼玉の小川町に紙漉きの古い工房を訪ねたときも、築400年の茅葺民家でした。
独立前に勤めていた設計事務所兼工務店も、築100年の蔵のある民家を作業場にしていました。「長く使われる」家って、それだけでエコロジーですよね。

さて、この日は2020年から義務づけされる「省エネ計算」の勉強会で、
その前に平田家住宅を見学したのです。
「省エネ住宅」と「古民家」。正反対にも思えますね。

今度の法律では、省エネのために、断熱材や窓の性能をあげたり、太陽光パネルや高性能のエアコンや給湯器を入れることで、家で使うエネルギーを減らそうというのが目的です。
これ自体はとてもよいことではあるのですが、これまでの各地の風土に合った伝統的な家づくりができなくなってしまいます。へたをすると、機械だらけの家ができてしまいます。

柱や梁の見える、土壁や三和土の家が、数字で評価できないというだけで、
新築できなくなるということで、数年前から、建築関係者の間で大問題になってきました。

長年、土壁や古民家の改修などに尽力されてきた諸先輩方の働きかけがあり、国も別の道を模索し始めているのだそうです。
その名も「気候風土適応住宅」
縁側、深い軒、土間、土壁、障子などを上手に使って、その地域の地形や風向き、日当たり、湿度などをしっかり把握して設計することで、省エネ計算を完全にクリアしていなくても、建てることができる可能性がでてきたということでした。

ただ、これを実際に設計するには、施工に時間がかかることを建て主さんに理解してもらう必要があります。土壁や土間などは、相手が自然の土なので、そのたびに試塗りを繰り返してから実際の壁を塗ります。土が一定の性質ではないので、土間は、にがりの配合を変えて調整していく必要があるのです。うまくいかないときは、壊してやり直したこともあります。

まさに時間と人の手が作る家が、「気候風土適応住宅」だと思います。

勉強会でみなさんの発表を聞いて、省エネ計算への道と気候風土適応住宅への道、どちらに行ったらいいのか、参加した建築士さんたちも悩んでいるようでした。もちろん私も。